れが、こう言うのです。
「まあ、しずかにしていらっしゃい。……あなたはいったい、だれですか。どこからいらっしったのですか。私どもはこの国の者です。たんぼへ出て働いていますと、いかだが流れて来て、その上にあなたがねむっていらっしゃるので、お助けしたのです。さあ、どうか、ここまでいらっしゃったわけを話してください。」
「ありがとう、いや、どうもありがとう。お話ししましょう。ですけれども、その前に、何かたべる物をくださいませんか。お腹がへって、声が出そうもないのです。」
 黒んぼたちは、すぐに、食べ物を持って来てくれました。それで、私はやっと力がついて、気分もよくなりましたので、何もかも、くわしく話してやりました。
 すると、みんなは、
「この人を、王さまのお目通りへ、つれて出よう。」と、口をそろえて言いました。
 それから、私に、王さまはセレンジブさまというお名前で、世界じゅうで一番えらくて、一番の金持だと、話して聞かせました。
 私は、よろこんで、ついて行くことにしました。もちろん、宝石などの入れてある、こうりも持って行きました。
 セレンジブ王の御殿は、大へんりっぱなものでした。私は、まだ生れて一度も、あんなりっぱな御殿を見たことがありません。
 王さまは、大そう私をいたわってくださいました。そして、私の申し上げる話を、大へんおもしろそうにお聞きになりました。
 そして、私が、どうぞ自分の国へ帰らせてくださいませ、とお願いしますと、すぐに、船を出すようにと、家来にお命《めい》じになりました。それから、ご自身で、バクダッドの王さまへあてて手紙をお書きになって、私には、りっぱなみやげ物をくださいました。
 こんなにして私は、バクダッドへ帰って来ることができたのであります。
 そしてすぐに、カリフさまの御殿へ行って、手紙と、セレンジブ王からいただいたみやげ物とを、さし上げました。
「まあ、このコップは、たった一つのルビーをくりぬいて、こしらえたものじゃないか。おやおや中には、まあ、りっぱな宝石で、もようがかいてあるんだな。おや、これはまた、象《ぞう》でものみそうな、大きな蛇の皮じゃないか。ああ、背中の紋《もん》がまるで、金のように光ってるな。これさえあれば、どんな病気だってなおせる。」
 こんなふうに、カリフさまは、手紙と、みやげ物を持って、大よろこびなさいました。それか
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