をとっているらしいのです。そして、さもさも弱っているようでした。私は大へんかわいそうになってしまいました。それで、
「もしもし、ここで何をしていらっしゃるのですか。難船《なんせん》でもなすったのですか。」
と、聞いてみました。
けれども、そのおじいさんは、悲しそうに首をふっただけでした。そして、この小川を渡らせてくれと、手まねでたのみました。
私は、きげんよく、よろしいと言って、しゃがんで、その人を肩ぐるまにのせました。おじいさんは、思ったよりも重うございました。
私は小川を渡りました。それから、その人をおろそうとしました。するとどうでしょう、おじいさんは、おりようとはしないで、両方の足でますます私の首を強くしめていくのです。私は息《いき》ができなくなりました。そしてとうとう、あっと言ったきり気をうしなってしまいました。
それからしばらくして、気がつきましたけれど、やっぱりおじいさんは、私の肩にまたがっていました。そして、やせてとがったそのひざで、私をうんうんつきはじめました。それがとても痛いのです。私はたまらなくなって、起きて、また歩きはじめました。そして、その人が行けという方へ行くよりほか、どうにもしようがありませんでした。
それよりは、毎日々々、口では言えないほどの苦しみをしました。一分間も、へんなおじいさんは、私の肩からおりようとしないのです。私が寝ている時でも、そうなのです。そして、はじめのように、とがったひざで、うんうん私をついては、おっ立ててゆくのです。そして、自分はしょっちゅう、果物を取ってたべているのです。私も、もとより取ってたべました。そうしなければ、お腹《なか》がすいて、死んでしまいそうですからね。
さて、ある日のこと、私どもは、大へんたくさんひょうたん[#「ひょうたん」に傍点]がなっているところへ来ました。そして、そのうちにたった一つ、中がからになって、ひぼしになっているひょうたんがありました。私はそれをとって、その中へ、ぶどうの汁《しる》をしぼりこみました。そして、日のよくあたりそうなところへ、ぶらさげておきました。
それからまた、あちらこちらと歩きまわって、四五日たってから、ひょうたんのところへ行ってみますと、どうでしょう、おいしいおいしい、ぶどう酒《しゅ》ができているではありませんか。
私は、大よろこびで、ぎゅうぎゅう飲
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