っ赤《か》な目がありました。それはちょうど、石炭がもえている時のように、ぎらぎら光っていました。口は、まっ暗な井戸のようで、くちびるは、らくだのように胸までぶらさがっていました。そして、耳は象のように大きくて、肩のへんまでたれていました。また爪《つめ》は、わしのようにとがっていました。
 私どもは、この大入道を一目見るやいなや、気をうしなって、そのままそこにたおれてしまいました。
 やがて、息《いき》をふき返してみると、大入道は、私たちを一人ずつ、つまみ上げて、そのまっ赤な目で、ていねいにしらべているところでした。
 すぐに私がつまみ上げられました。私は、高いところで、ぶらんぶらんしていました。大入道は、ぐるぐる私をまわしながら、からだの方々をつねってみるのです。太っているかどうか、こうしてしらべるのです。やがて、私が骨と皮ばっかりにやせているのがわかると、下へぽーんと投げました。それから、また、仲間の一人をつまみ上げました。この人も、くるくるまわされたり、つねられたりして、苦しそうでした。その次には船長をつまみ上げました。この人は、みんなの中では、一ばん太っている人です。大入道は、にやりと笑って、船長をかなぐしに、ぷすりとさしこみました。そして焼きはじめました。
 それから船長を、夕ごはんにしてたべてしまうと、ぐうぐうねむりはじめました。そのいびき[#「いびき」に傍点]は、一晩じゅう、雷がごろごろ鳴りひびいているようでした。
 そして朝になると、私たちには目もくれないで、さっさと出かけて行きました。
 すぐに、私どもは、よりあつまって、自分たちの不運《ふうん》を悲しみあいました。そして、どこかほかに、かくれ場をさがそうと思って、御殿を出て行きました。
 しかし、島じゅうどこにも、そんなところはありませんでした。
 夜になって、仕方なく、また御殿へ帰って来ました。
 すると、まもなく大入道も、外から帰って来て、また仲間の一人をつかまえて、きのうの船長と同じようにして、たべてしまいました。
 次の朝、大入道が出かけて行った後、私どももやっぱり、出かけました。こんどは、もう一度この御殿へ、たべられに帰って来るくらいなら、いっそ海へ身を投げて、死ぬ決心《けっしん》でした。
 それから、方々さがしても、やっぱりどこにも、かくれ場はありませんでした。そして、出るともなく海岸へ
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