というほどでした。
 仕方がないので、私どもはともかくも、その島のかげで、あらしをよけるために、いかりをおろしました。
 けれども、船長が、この島をつくづくと見た時、急にかみの毛を引きむしって、
「しまった、ここは猿《さる》の山にちがいない。」と、さけんだのであります。
 それから船長は、この島へ来て、生きて帰った者はないのだ、という話をしました。なぜかというと、この島には、人よりも猿によくにたものがたくさん住んでいて、おまけに大そう、けんかずきだというのです。
 船長のこの話が終らないうちに、もう小さなやつが大勢、海岸へ出て来たかと思うと、船をめがけて、ぽちゃぽちゃと泳《およ》いで来はじめました。
 それが近づいて来た時、よくよく見ると、一寸|法師《ぼうし》のようで、猿よりもにくらしいのです。そして、からだじゅうに赤い毛が、ぎっしりはえていました。
 やがて船に泳ぎつくと、みんなして船を海岸へ引っぱって行きました。そして、私どもを陸《おか》に追い上げて、こんどは自分たちばかりが船に乗って、ほかの島をさして、こいで行きました。
 私どもは、こわごわ、そこらじゅうを歩いてみました。そして、果物や木の根を見つけて、たべました。
 夕方になってから、向うに高い御殿が立っているのが、見つかりました。それで、そこにかくれるところがあるかもしれないと思って、行ってみることにしました。
 御殿には、こくたんの大きな戸が閉まっていました。おすと、すぐに開きました。私どもは、中庭へ入って行きました。だれもいないで、ひっそりとしていました。
 しかし、しばらく見まわっているうちに、骨《ほね》を小山のようにつみかさねてあるところへ来ました。そこには、物を焼く時に使うかなぐしが、いっぱいちらばっていました。
 わけがわからないものですから、私たちは、だいぶ長い間、じっとそれを見ていました。すると、太い、雷《かみなり》のような音が聞えてきました。みんなが、その方をふり向くと、ちょうど、こくたんの戸がそろそろと開きかかっているところでした。そして、くれない[#「くれない」に傍点]と金をまぜたような夕やけの空の中に、ぬうーっとあらわれたのは、おそろしい大入道《おおにゅうどう》でした。
 その大入道は、松やにのようにまっ黒な色をしていて、しゅろの木のように背が高いのです。ひたいのまん中に、一つ、ま
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