二|度《ど》めの航海《こうかい》の話《はなし》

 家へ帰って、しばらくの間は、私も楽しくくらしていました。しかし、まもなく、私は、ぶらぶらとその日その日をおくることが、いやになりました。そして、海の上へ乗り出して、波の上をとぶように走ったり、帆づなをびゅうびゅううならせて吹いてゆく、風の音を聞いたりしたくて、たまらなくなりました。
 そこで私は、いそいでいろいろの品物を買いあつめ、もう一度、外国へ商売《しょうばい》に出かけることにしました。
 それから、つごうのよさそうな船に乗って、大勢の商人たちと一しょに、いよいよ二度めの航海に出かけました。
 船は、みちみち、いろんな港につきました。私どもは、そのたんびに、持って来た品物を売って、大そうもうけました。そして、すっかり品物を売りはらってしまってから後のことでした。ある日のこと、私たちは、ある島につきました。
 その島は、ほんとうに美しい島でした。エデンの園《その》かと思われるほど、きれいなところでした。たくさんの花が、にじ[#「にじ」に傍点]のように咲きみだれて、じゅくした果物が、おいしそうにふさ[#「ふさ」に傍点]になって、なっていました。
 私は、まずこの木の下へどっかりとすわりました。そして、あたりを見まわしました。
 そこら一面、見れば見るほど、美しゅうございました。私は、持って来た食べ物をたべたり、お酒を飲んだりしました。それから目をつぶりました。そばを、しずかに流れている、小川の流れの音が、歌のように聞えてきました。そのうちに、ぼーっとしてきて、私はねむってしまいました。
 それから、いったい、どれだけ時間がたったのかわかりませんが、ふと目をさますと、一しょに来た人たちは、一人もいなくなっていました。びっくりして、海の方へさがしに行ってみますと、まあ、どうでしょう。船は、とっくに出てしまっているではありませんか。そして、はるか向うまで走って行って、ちょうど白い点を打ったように見えるだけであります。私は、この島におき去りにされてしまったのです。こんなことになるほどなら、どうしてあのまま、家にじっとしていなかったのかと、泣いて残念《ざんねん》がりましたけれど、仕方がありませんでした。
 私は、どうにかして島から出て行くことはできないものかと思って、高い木にのぼって、方々を見まわしました。
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