底に、一枚の金貨がくっついていたということには、ちっとも気がつきませんでした。
「まあ、なんてことだろう。アリ・ババの家では、あんまりお金がどっさり入ったので、かぞえきれないで、ますではかったんだね。」
 カシムのおかみさんは、金貨を見つけて、いまいましそうにどなりました。
 カシムが帰って来て、この話を聞いて、もっともっとおこりました。そしてすぐに、アリ・ババの家へ出かけて行きました。
「何だってお前はかくすんだね。私の家内《かない》は、お前がかぞえきれないほどたくさんの金貨を手に入れたので、ますではかったってことを、ちゃあんとかぎつけてるんだよ。さあどうして、そんなにたくさんのお金をこしらえたのか、はくじょうしろ。」と、アリ・ババにしかるように申しました。
 アリ・ババは、せっかくかくしていたことを知られてしまったので、がっかりしました。仕方がないので、兄さんに何もかも話してしまいました。そして、
「きっと、だれにも言わないでくださいよ。」と、言いながら、あの、「開け、ごま。」「閉まれ、ごま。」という言葉を、教えてしまいました。
 カシムは、自分の家へ帰って来て、十二ひきのろばを馬
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