あとかたもなくなりました。
アリ・ババは家へ帰って来ました。おかみさんは金貨の袋を見て、大へん悲《かな》しそうな、またこわいような顔をして、アリ・ババに泣きつきました。
「まあ、お前さん、もしかしたらこれは?……」とまで言って、それからさきはもう声が出ない様子でした。
するとアリ・ババは落ちつきはらって、
「安心おしよ。なんで私がどろぼうなんかするものかね。そりゃ、この袋は、もともとだれかがぬすんだものには、ちがいないがね。」
と、言いました。それから、金貨の袋を見つけたいちぶしじゅうを話して聞かせました。
それを聞いて、貧乏なこのおかみさんは大へんよろこびました。そして、アリ・ババが袋からつかみ出す金貨を、「一|枚《まい》、二枚」とかぞえはじめました。
そのうちアリ・ババが、ふと気がついたように顔を上げて、
「そんなかぞえ方をするのはばかだね。そんなことをしていたら、みんなかぞえてしまうには何週間かかるかわかりゃあしないよ。いっそこれは、このまんま、庭へ穴を掘《ほ》ってうずめようじゃないか。」と、言いました。
するとおかみさんは、
「でも、私たちがどれほどのお金持になったの
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