ぶやきました。ペルシャには、こういう迷信《めいしん》があるのです。
 モルジアナは、すぐに自分のへやへもどって来て、おどり子の着る着物を着ました。そして、晩ごはんが終った頃を見はからって、短刀を片手ににぎって、お客さまのざしきへおどりをおどりに出ました。
 モルジアナは大そうじょうずにおどって、みんなにかっさいされました。にせの商人は、さいふから金貨を一枚出して、モルジアナのタンボリン(手つづみ)の中へ入れました。その時モルジアナは、片手に持っていた短刀を、やにわに商人の胸《むね》につきさしました。
「ふとどき者め、お客さまをどうしようというのだ。」
 アリ・ババがしかりつけました。するとモルジアナは落ちついて、
「いいえ、私はあなたの命をお助けしたのでございます。これをごらんくださいまし。」
と言って、商人がそでの中にかくしていた短刀を取り出して見せました。そして、この商人が、ほんとうは何者であったかということを申しのべました。
 それを聞くと、アリ・ババは、ありがた涙《なみだ》にくれて、モルジアナをだきしめました。
「お前はわしの息子のおよめさんになっておくれ、そしてわしの娘になっ
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