たどりついた時、地の上では、まほう使が一心に下の方を見つめて待っていました。そしてアラジンが石段をのぼりかけると、
「早く、ランプをおよこし。」と言って、手をのばしました。
「私が持って出るまで待ってくださいな。出たらすぐにあげますから。ここからじゃとどかないんですもの。」と、アラジンは答えました。
「もっと手を持ち上げたらとどくじゃないか。さあ、早くさ。」
 おじいさんは、おこった顔《かお》をしてどなりつけました。
「すっかり外へ出てから渡しますよ。」アラジンは同じようなことを言いました。
 すると、まほう使は、はがゆがってじだんだをふみました。そして、ふしぎな粉をたき火の中へ投げこみました。口の中で何かぶつぶつ言いながら。そうすると、たちまち石がずるずるとふたをしてしまい、地面の上へかえる道がふさがってしまったのでした。アラジンはまっ暗な地の下へとじこめられてしまいました。
 これで、そのおじんさんは、アラジンの伯父さんではないということがはっきりとわかりました。このまほう使は、まほうの力によって遠いアフリカで、このランプのことをかぎつけたのでした。このランプは大へんふしぎなランプなのです。そのことは、読んでゆくにしたがって、だんだん皆さんにわかってくるでしょう。しかし、このまほう使は、自分でこのランプをとりに行くことはできないのでした。だれかほかの人がとって来てやらなければ、だめなのでした。それで、アラジンにつきまとったわけです。そして、ランプさえ手に入ったら、アラジンを殺《ころ》してしまおう、と思っていたのでありました。
 けれども、すっかりあてがはずれてしまいましたので、まほう使はアフリカへ帰ってしまいました。そして長い長い間、しな[#「しな」に傍点]へは、やって来ませんでした。
 さて、地の下へとじこめられたアラジンは、どこかにげ道はないかと、あの大広間や果物畠の方へ行ってみましたが、地面の上へかえって行く道はどこにもありませんでした。二日《ふつか》の間アラジンは泣きくらしました。そして、どうしても地の下で死んでしまわなきゃならないのだと思いました。そして、両方の手をしっかりとにぎりあわせました。その時、まほう使がはめてくれた指輪にさわったのでした。
 すると、たちまち大きなおばけが、床《ゆか》からむくむくとあらわれ出て、アラジンの前に立ちはだかりました。そして、
「坊《ぼっ》ちゃん、何かご用でございますか。私は、その指輪の家来《けらい》でございます。ですから、その指輪をはめていらっしゃる方のおっしゃる通りに、しなければならないのでございます。」と、言うのです。アラジンはとび上るほどよろこびました。そして、
「私の言うことなら、どんなことでも聞いてくれるんだね。よし、じゃ、こんなおそろしいところからすぐつれ出しておくれ。」と、こうたのみました。
 そうすると、すぐに地面へ上る道が開きました。そして、あっというまに、もう自分の家の戸口まで帰っていました。お母さんがアラジンが帰ったので、涙を流してよろこびました。アラジンもお母さんにだきついて、何度も何度もキッスしました。それから、お母さんにこの間からのいちぶしじゅうを話そうとしましたが、お腹《なか》がぺこぺこでした。
「お母さん、何かたべさせてくださいな。私はお腹がぺこぺこで死にそうなんです。」と、アラジンが言いました。
 お母さんは、
「ああ、そうだろうとも、ねえ。だがこまったよ、もう家の中には、少しぽっちの綿《わた》よりほかには何にもないんだよ。ちょっとお待ち、この綿を売りに行って、そのお金で何か買って来てあげよう。」と、言いました。
 するとアラジンは、
「お母さん、待ってください。いいことがあります。綿を売るよりも、この、私の持って帰ったランプをお売りなさいな。」と言って、あのランプを出しました。
 けれども、ランプは大へん古ぼけていて、ほこりまみれでした。少しでもきれいになったら、少しでも高く売れるだろうと思って、お母さんはそれをみがこうとしました。
 しかし、お母さんが、そのランプをこするかこすらないうちに、大きなまっ黒いおばけが、床《ゆか》からむくむくと出て来ました。ちょうど、けむりのように、ゆらゆらとからだをゆすりながら、頭が天じょうへとどくと、そこから二人を見おろしました。
「ご用は何でございますか。私はランプの家来でございます。そして私はランプを持っている方の言いつけ通りになるものでございます。」と、そのおばけが言いました。
 アラジンのお母さんは、このおばけを見た時、こわさのあまり気をうしなってしまいました。アラジンは、すぐお母さんの手からランプを引ったくりました。そしてふるえながら、自分の手に持っていました。
「ほんの少しでもいいから、たべるも
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