》いて、内部で爆発をした。ガスコアン大尉は損害を視察するため、急いでそこへ駆けつけた。見ると砲台の内部は、ぺトンの崩壊でめちゃめちゃになっていた。血の付いたペトンの破片がそこにもここにも散らかっていた。真夏の暑苦しい砲台の空気のうちに、血腥《ちなまぐさ》い空気が澱《よど》んでいた。そして死に切れない重傷者のうめきが、思い出したように時々きこえてきた。ガスコアン大尉は、さすがにゼラール中尉の生死が気遣われた。彼は倒れた死傷者を一人一人見て歩いた。そしてやっとのことで、砲身のすぐ横に血に染まって倒れている中尉を見出したのである。中尉は腹部に大きい砲弾裂傷を受けていた。まだ息はあるようであったが、まったく昏睡してしまっていた。大尉の心には、もう中尉に対する憎悪は少しもなかった。彼の頭のうちには、国家のために奮闘して倒れた勇士に対する純な尊敬と感謝とだけがあった。中尉のそばに蹲《うずくま》った彼は、水筒に入れてあったブランデーを、負傷者の口に注ぎ入れた。すると強烈な酒によって刺激された中尉の神経は、ほんのしばらくの間ではあったが、再びこの世界に呼び戻された。大尉は声を励まして、
「僕だよ! ガ
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