た。
 が、ここで彼の怒りをもらすことは、自分が議論に負けた余憤をもらすように解釈されることの恐れがあったので、彼は激しい一|瞥《べつ》を残したまま、ものをもいわずに出て行ってしまった。
 立ち去って行くガスコアン大尉の後姿を見送るゼラール中尉はまったく得意であった。彼はガスコアン大尉の憤慨を、議論に負けた口惜しさのためだと思った。彼はよく透る声を振りしぼりながら、「二千メートル、敵歩兵の集団」と元気よく号令していた。
 その日の夕暮の闇に乗じて、軽騎兵は堡塁と堡塁との間を、十字火を浴びながら、リエージュの町に向って突撃を試みた。ポンチスとバルションの堡塁はもうとっくに沈黙してしまっていた。フレロンの要塞のすぐ隣のロンサン堡塁の砲火も、もうめっきりと衰えていた。リエージュの命数は数えることができた。
 翌日は、ドイツの四十三サンチ砲が初めて戦場に現れた日である。
 フレロン要塞も、見る影もなく打ち壊されていた。まだ応戦を続けていたのは、ゼラール中尉の指揮している第二砲台と、第八砲台との二つだけであった。
 その日の十時頃、敵の大砲弾が見事に第二砲台のペトンの掩堡《えんほう》を貫《つらぬ》いて、内部で爆発をした。ガスコアン大尉は損害を視察するため、急いでそこへ駆けつけた。見ると砲台の内部は、ぺトンの崩壊でめちゃめちゃになっていた。血の付いたペトンの破片がそこにもここにも散らかっていた。真夏の暑苦しい砲台の空気のうちに、血腥《ちなまぐさ》い空気が澱《よど》んでいた。そして死に切れない重傷者のうめきが、思い出したように時々きこえてきた。ガスコアン大尉は、さすがにゼラール中尉の生死が気遣われた。彼は倒れた死傷者を一人一人見て歩いた。そしてやっとのことで、砲身のすぐ横に血に染まって倒れている中尉を見出したのである。中尉は腹部に大きい砲弾裂傷を受けていた。まだ息はあるようであったが、まったく昏睡してしまっていた。大尉の心には、もう中尉に対する憎悪は少しもなかった。彼の頭のうちには、国家のために奮闘して倒れた勇士に対する純な尊敬と感謝とだけがあった。中尉のそばに蹲《うずくま》った彼は、水筒に入れてあったブランデーを、負傷者の口に注ぎ入れた。すると強烈な酒によって刺激された中尉の神経は、ほんのしばらくの間ではあったが、再びこの世界に呼び戻された。大尉は声を励まして、
「僕だよ! ガ
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