せんな。尤も私は外の仕事が忙しくて家の中のこと迄気を配っている余裕なんかなかったせいかもしれませんがね。それだけに、たまにいる時には珍しいんでしょう。
けい 私の所じゃ、私が店の用事で追い廻されれば追い廻されるほどあの子は私の所から遠くなってゆくのです。お互いに淋《さび》しいんだから、たまにいる時でも、という気が起りそうなものがあべこべなのです。
栄二 でも、あの子は姉さんの立場や気持を、案外わかっているじゃありませんか。
けい そうなんです。あの子には私のことは私以上によくわかっているのです。わかっていてやっぱり我慢がならないのですよ。それを一生懸命に辛抱しているのです。みてて痛々しいくらいですよ。
栄二 そんなに知栄ちゃんのことが気になるなら、どうして、兄貴と一緒に住まないのですか。
けい 私が別居を望んだわけではないんです。此処はあの人の家だし、私が別に住みたいのなら、私がこの家を出てゆくべきじゃありませんか。あの人は私が此処を出てゆくことを望んでもいないのです。私がいなければこの店が困ることも事実ですからね。
栄二 それで、兄貴は不自由とも何とも思わないのかなあ。
けい あの人
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