よろしゅうございますか。
けい ええ、後のことは後のことで、また考えましょう。女の子ばかりだから、案外自分達でよろしくやってくれるかもしれませんよ。
清 さよでございますね。では……。
けい あ。御苦労さま。
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清、去る。
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井上 なんですか。支那からのお客様ですか。
けい ええ。
井上 ははあ。長い御逗留《ごとうりゅう》で。
けい ええ。少し長くなると思うんですよ。ひょっとすると、ずうっとこの家の人になるかもしれないのですが……。
井上 そりゃそりゃ。向うの人とくると、言葉も分らないだろうし、お大抵じゃありませんなあ。
けい いいえ、言葉は、片親が日本人ですから、案外平気なんだろうと思うんですがね。何しろ毎日の習慣や、衣食がねえ……違うでしょうから……。
井上 そうでしょうとも。同じ日本人同志でも土佐の人間と越後の人間じゃ、毎日のしきたりってものがこれ、随分違うものでしてね。私なんぞも、仕事の上で仲間と一緒に旅へ出ることがよくありますがね、びっくりして笑っちまうようなことがよくありますよ。
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清。
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清 あの奥さま。横浜の、伸一郎様と仰言しゃる方が……。
けい え? 誰が?
清 よく、わからないのでございますが、伸……何とか仰言しゃいました。
井上 こりゃ、とんだおしゃべりをしてしまって……では私はこれで。
けい 御苦労さま。まあ、お茶でも召し上がって行って下さい。清、頭《かしら》にお茶を。
井上 いえいえ。もう、結構でございます。私はこのままの方が勝手で……じゃ……。
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庭から去る。
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けい それで、旦那様は?
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と行きかける時、伸太郎。
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伸太郎 いいかね、入っても。
けい お帰んなさいまし。お迎えもしないで……。
伸太郎 ああ。しばらくだった。変りはないかね。
けい お蔭様で。あなたの方も……。
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