男のいい所がお前なんぞにわかってたまるものか。
ふみ えええ。どうせそうでしょうよ。男のいい所がわかるくらいならあんたなんかと一緒にならなかったでしょうからね。
精三 なに!
章介 おいおい。そういう話は二人だけの時に願おうじゃないか。
精三 いや。あっははは、こりゃ、一本参りました。はっははは。
伸太郎 (むっつり)いやに遅いじゃないか。今迄クラブにいたのかね。
けい すみません。……みんな血眼《ちまなこ》になってるもんだから話がすっかりのびちまって。
伸太郎 遅くなるならなるでそういって貰わなくちゃ。家でも帰るか帰るかと思って待ってるんだ。
けい だって……家の方の段取りはちゃんとついてるんだし、精三さんだって頼んであるんですもの。
伸太郎 精三君だって勤めのある人だ。そうそう此方《こっち》の勝手な時に呼び出されては、困るだろう。知栄だってお前がいないもんだから何時迄《いつまで》もねやしないし。
けい あら、子供は何時だって咲やと一緒にねるんだから、そいって下さればいいのに。知栄ちゃん咲やにそういってお床とって貰いなさい。
知栄 私、お母さまと一緒にねるの。
けい (つい焦々《いらいら》して)子供が何時までも起きてるものじゃありません……お母さまはまだ御用があるんだから先におやすみなさい。
知栄 ……。
章介 さあ、今日は叔父さんとねよう。な、お母さん達は今日はお話が残ってるんだからな。さ、行こう。(と、行きかけて)あ、伸さん。例の斎藤長兵衛な。今日とんでもない所で表札をみたんだ。鎌倉の小町なんだがね。あんな所にいたんだね。探してもわからない道理さ。(入ってゆく)
精三 斎藤長兵衛というと、例の夜逃げの口なんですか。
けい ええ、そんな所にいるんじゃ、東京中探したってわからない道理ですよ。
精三 しかしよくまた、見つかったものですね、偶然なのかな。
けい そうなんですって。御自分の用事で鎌倉までいらしって、夕立にあったものだから雨やどりをしようと思って何の気なしに表札をみたらそうだったというんでしょ。悪いことは出来ないもんですね。
精三 天網恢々《てんもうかいかい》ですかな。そういうのは一つ見せしめのために大いに絞《しぼ》ってやるんですよ。
けい ええ。だから、明日にでも私、行って来ようと思っているんですがね。
精三 そりゃそうなさい。ぐずぐずしていると又逃げら
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