は泣いてなかったな、すると……(ふと云い止んで)お前、邪推じゃないだろうな。
未納 ないとは言えないわ。ふっと、そんな気がしただけなんだもの。証拠のあることじゃない。
昌允 だが、お前がそう感じたんならそうだろう。
未納 妾、受け合わないわよ。そりゃ、妾だって、考えたくないことだもの。邪推かもしれないわ。
昌允 おい、俺を慰めてやろうなんて考えを起したって駄目だぞ。俺はまだ、お前に……。
未納 妾だって、まだお兄さんに同情してるほど余裕は出来てやしないわ。妾が助けてほしいくらいだわ。お兄さんったら妾が、そう言ったら直ぐそうかと思っちまうんだもの。妾だって困るじゃないの。
昌允 しかし、出鱈目だと言って怒るわけにもゆかないだろう。
未納 何とか、言いようがあるわ。
昌允 お前がそうだと言えば、そうかと思うより他ないさ。
未納 でも、そう言うこと、有り得ることだと思って?
昌允 有り得ることだ。そう言うことの可能性ってものは、無限大だな、理窟もへったくれもないさ。
未納 そういうものかしら、じゃ、仕方がないわ。
昌允 仕方がない、と言うのは、どう言う意味だ。それは、つまり……まあどうでもい
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