たのよ。妾の方じゃ兄妹だと思っていたから平気でいられたのね。恥ずかしいわ。我儘ばかり言ってたわ。
諏訪 そんなことないわ。母さんが保証してよ。
鉄風 ほんとに問題はないかね。これは……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 未納ちゃんからそう言われてみると、お兄さんが妾によくして下すったことが、一つ一つ胸に思い当って来たわ、ほんとに妾いけなかったと思うの。
未納 それはそうだわ。お兄さんは不器《ぶき》っちょだけど、あれで、いろいろ気をつかってはいるんだわ。だあれも、それを感じて上げないんだもの。
鉄風 生意気を言うな。すると、この問題は昌允から出てるんだな、そいつは一向気がつかなかった。
諏訪 妾、言ったでしょ、何かあるに違いないって。
鉄風 しかし君は、事態がこうだとは言わなかったよ。
諏訪 そんなこと、誰にだってわかりゃしないわ。
鉄風 何か、か。それだけじゃ、分っていたとは言えんよ。
未納 そいじゃァ、お姉さん本当なの、それ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ええ、妾ね、以前は少し怖かったのよ。だけど、もう怖くなくなったわ。あの人はいろんないいところがあるのよ。そりゃァ……。
未納 (機嫌が直っている)現金だわ、お姉さん現金よ。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ええ、そう。妾、自分でもそう思ってるの……(両手で頬を押える)可笑しいわね。
未納 まあまあだ。お父さん、どう。構わないでしょ。
鉄風 何とも言えん。母さんと相談してくれ。
諏訪 妾にはわからないわ。あなたが始めに口を切ったことよ。あなたがいいように、して上げて下さい。
鉄風 何も俺一人に委《まか》せることはないさ。君の考えも聴こうじゃないか。
諏訪 考えなんかありません。いろんなことが、一度に起っちゃったものだから、妾、頭ん中が滅茶々々よ。明日が心配だわ。あなたがやって下さい。
鉄風 俺にだって一向名案も浮ばない。兄と妹とが愛し合うということは、世間の手前、どう言うことになるのかね。
昌允 (川原から)未納そこに居ないか?
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間。
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昌允 (外で)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん!
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、立ち上って窓の所へ行く。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] どうなすったの、裸なんかになって。
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未納、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の傍へ行く。
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未納 泳いで来たのね。
昌允 身体を拭くものを出して呉れ。濡れてるんだ。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、奥へ行く。
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鉄風 泳ぐのは少し早くないかな。
未納 一寸、寒いかもしれないわね。早く、上ってらっしゃい。いいこと教えて上げてよ。
鉄風 無鉄砲なことをする奴だ。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、タオルを持って出てくる。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 抛《ほう》ってよ、よくって。
鉄風 (諏訪に)少し休んでみちゃァどうだ。横になってみた方がいいかもしれないよ。
諏訪 ええ。妾の部屋、西日が這入るものでこれからひとっ時、困るわ。(立上る)
鉄風 だったら、俺の部屋を提供するさ。
諏訪 ありがと、そうして戴こうかしら。
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昌允。
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昌允 母さん、何か用ですか、早く帰れって。
諏訪 いいえ、別に、どうして?
昌允 須貝さんに言伝《ことづて》なすったんじゃないんですか。
諏訪 ああ、別に用はなかったんだけど、早く御飯にしようかと思って……。
昌允 なんだ。
未納 一緒に泳いでたの、あの人。
昌允 いや、あの人は、撮影所へ行ったよ。
鉄風 宣伝を聞いてすぐ帰ったわけじゃないんだな、すると。
昌允 どうせなんでもないんだろうと思って……。
鉄風 そういう奴だ、いざと言う時の間には会わんよ、お前は。
未納 お兄さん、お兄さん。
昌允 なんだ、忙しい奴だな。
未納 忙しいわけよ。わかってて。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 未納ちゃん! (未納の手を取る)
未納 (それを振り払って)いいじゃないの。お兄さんったら、そんな難しい顔をしたって駄目よ、後で恥しがったってきかないわよ。
昌允 なんのことだ。だらしのない顔をするな。
鉄風 未納、余計な世話は焼かない方がいいぞ。
未納 いいわよ、余計なお世話なんかじゃないわ。妾も、や
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