な。
諏訪 そうでしょう。愉快なの。妾達。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 妾は別よ。
諏訪 えへッ! (美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の頬を突く)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]のバカヤロー。
鉄風 この頃家の連中は習慣がついてきたようだね。自分達だけの言葉で話す。
諏訪 いいことよ、妾少し虐《いじ》めてやりたいの、この子を。ええそう虐められてもいいわけがあるのよ、この子はね。ふふ……。
鉄風 変態性みたようだな、厭な笑いかただ。
諏訪 どうして、そんなことばかり被仰るの。生理学を始めたわけじゃァないんでしょ。
鉄風 美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]は、お父さんをお茶に呼んでくれるのを忘れたようだな。少し、冷えてるよ、これは。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 替えて来ましょうか。
鉄風 いいよ、これでいい。ところで、(諏訪に)先刻の話は、どうなった。
諏訪 さっきの話って……言うと。
鉄風 言うと? 俺は、自分の部屋に這入《はい》ったけれど一向落ちつかない。まるで自分が求婚してるような気がしてたんだ。息を殺して汗を流してたんだよ。ところが一向何にも言ってくれない。女はどうも、割に平気だね、こういうことは……。
諏訪 (思い出して)ああ、その話ね、その話だったら、あのう、……(美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の前で一寸云い難い)ええ、一寸だけ。でもわからないの。まだゆっくり……そのうち……。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]立ち上る。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 なに行かなくってもいいんだよ。家の中のことだもの。お前にだって、聴いておいてもらわなくちゃァ。(諏訪に)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]の意見だって聴いておいた方がよくないか。
諏訪 (煮えきらない)ええ……それは……ねえ……。
鉄風 それはねえ、ということはないよ。必要だ。しかし、須貝は何て言うんだね。
諏訪 だけど妾、まだ、何て言っていいか、わからないわ。そんなところ迄話せなかったんだもの。(腹立たしく)あなたがいけないのよ。妾一人に押っつけとくから……妾、知りませんよ、どうなったって……。困ったわ。ほんとに困ったことになったわ。
鉄風 君が、困るわけは、ないと思うがねえ。須貝は未納じゃ、不足だと……でも……。
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美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、一寸堅くなる。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 そうじゃないの、そうじゃァないんですよ。困ったわね、何う言ったらいいかしら、ただもう、ぼんやり、結婚は厭だって言うの、あの人。
鉄風 ぼんやり厭だって言うと……。
諏訪 厭なことは、はっきりしてるのよ。
鉄風 じゃァ、何だい、そのぼんやりしてるのは……
諏訪 それはね。(荒っぽく)妾にだってわからないわ。そんなに将棋の詰めてみたいに言われたって返答出来ないじゃありませんか。
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鉄風、ぽかんとしている。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 (はっとして、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]に)言って頂戴、正直によ。胡魔化しちゃ厭よ。美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 痛いわ、母さん。
諏訪 あなたの好きな人って、須貝さんじゃないの。
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間。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 (唸る)――。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (英雄的に微笑《ほほえ》んで)そうじゃないわ。母さん。
鉄風 (諏訪に話す機会を与えずに)実は……なんだ、未納の奴、須貝と一緒にして欲しいらしいんだ。それで……俺としては……しかしほんとかね、お前それで構わないのか。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] ちっとも構わないわ、お父さん。妾だって賛成だわ、丁度いいじゃありませんの。二人は仲良しだし、ほんとに仲がいいんだから。
鉄風 お前がそう言うから、それに間違いないだろう。それじゃァ、この話は、ちっとも難しいことはないわけだね。
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諏訪、落ちつかない。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 (諏訪に)お前だって、別に考はないんだろう。じゃあ、それでいいんだな。後はただ……。
諏訪 このお茶は、すっかり冷えて了ったわ。
鉄風 (美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]に)だけど、俺は順序として、出来ればお前の方からはっきりしておきたいと思ったんだ。母さんがいい
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