ぱり行って来ます。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 何処へ?
須貝 ええ、一寸……。
諏訪 停《と》めやしないわ。撮影所へ小道具の模様替えなんだって……
[#ここから3字下げ]
須貝去る。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 その辺で昌さんを見つけたら、早く帰れって言っといて下さい。聞えて?
須貝 (外で)聞えません!
諏訪 聞えませんだって。(上機嫌)如何、御機嫌は。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] どうって……母さんは?
[#ここから3字下げ]
諏訪答えない。
[#ここで字下げ終わり]
諏訪 (軽く唄って、鏡の前へ歩いて行く)心あてに……それか……とぞみる……しら露の光そえたる花の(じっと自分の顔をみている)夕(顔は云わずにくるっとふり返る)
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 何よ、母さん!
諏訪 何でも。(笑う)
須貝 (扉から顔だけ覗けて)美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん!
諏訪 まあ! びっくりしました。
須貝 美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]さん、ちょっと!
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] なあに。(近づく)
[#ここから3字下げ]
須貝、扉から一寸入って、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]にだけ、何か云う。
[#ここで字下げ終わり]
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (困って)ええ……それは、ええ、ほんとですわ。
須貝 間違いありません?
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] だって……何うして? そんなこと……。
須貝 いや。なんです。何でもないんですが……後で言いますから……後でね。
諏訪 妾、聞えてやしませんのよ。
須貝 いや、一向差支えないです。何《いず》れ、お耳に入ることですから。(澄まして出ていく)
諏訪 何の話?
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 昌允兄さん、妾のほんとの兄さんかって。変ね。
諏訪 へえ、誰がそんなことを……。で、どう言ったの。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] だって、仕様がないわ、ほんとですって言うより。
諏訪 今度そんなことを訊かれたら、あなたの知ったことじゃァありません、って言って上げなさい。よくって。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 言えるかしら、そういう風に……。
諏訪 言えるようにしておくの。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] どうでしょう。
諏訪 しっかりして頂戴。そろそろ、あなたの回りにも男の人が集ってくるわよ。そういう人達を、はきはき片づける用意をしとかなきゃァ……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 大丈夫だわ。母さん、妾……。
諏訪 大丈夫でないのよ、ところが。誰でもそう思ってるの、始めはね。でも、いざとなると……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 母さんみたいに……。
諏訪 厭だ、この子は……。母さんのは。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 嘘よ、母さん。お父さんは妾だって好きよ。
諏訪 母さんは怖いのよ。あなたは、こんなに綺麗になっちゃったし、是《これ》からが心配よ。あなたは自分独りでこんなになったと思っちゃ駄目よ、みんな母さんのを取ってって……母さんはだんだん……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 嘘。母さんだってこんなに綺麗だわ。
諏訪 母さんに迄、お世辞を言うようになったのね、この子は……。もうすぐ、あなたも、恋をする、すると……。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (ぱっと赧《あか》くなる)あら!
諏訪 おや、どうして? 赧あくなったわよ、その顔。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] しらない。
諏訪 ふむ。これは、少しどうかしてる。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (テーブルの傍へ行って)パン、これでいいの。
諏訪 わかった。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] そいでいいんですか、何にもつけないの。
諏訪 わかったわかった。(お茶をのむ)
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] 冷えてない?
諏訪 冷えてない? だって……。あなたの考えてることが分りましたって言ってるの。
美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11] (真面目くさって)母さん、考え違いしてよ。妾は……もう……(続けて云おうとする)
[#ここから3字下げ]
鉄風、二階に現れる。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 そこへ行ってもいいかい。
諏訪 どうぞどうぞ。
鉄風 (降りながら)愉快そうだ
前へ
次へ
全26ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング