んも、少し現金ね。
昌允 そうかい、どうしてだ。
未納 だって、そうよ。
昌允 言ってみろ。
未納 慍《おこ》るから、厭。
昌允 慍る元気もない。
未納 お兄さんのことね……そ言ったらすぐ、その気になっちゃうんだもの……。
昌允 それで、お前だって喜んじゃったじゃないか。
未納 そりゃ、そうよ。
昌允 だったら、一緒じゃないか。
未納 だって……。
昌允 だっても糞もない。
未納 お姉さんだったら、何でも肩を持つわ、お兄さん。
昌允 それは、そうさ。
未納 ――(溜息)
昌允 何だ。
未納 お兄さんはいいわね。
昌允 そうか、どうして。
未納 お姉さんがいるから。誰も彼も、わあッ、と妾を好きになって呉れないかなァ。
昌允 俺だって、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]には、考える暇をやらなきゃァ、ならないさ。お前の考えるようには行かない。
未納 お姉さんは考えてるわ。あの人は、お買物する時だって、一番上手だわ、それに須貝さんが母さんを好きなんだとすると……。
昌允 しかし、須貝さんは、俺達の親爺になることは出来んよ、もう、ちゃんと一人あるんだからな。
未納 どうしてお兄さんは、そんなに、須貝さんと、お姉さんを一緒にしたいの。
昌允 したいわけじゃないさ。
未納 そうかしら、でも可笑しいわ。
昌允 何故だ。
未納 お兄さん、一生懸命逃げてるみたいだわ。
昌允 莫迦な。つまらんことを言うな。
未納 だけど、そうみえてよ。
昌允 それはお前の見方だ。俺の所為《せい》じゃないよ。
未納 ――。
昌允 (誰に云うともなく)俺は、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]が俺と結婚することなんか絶対に無いと思ったんだ。あんまり思いがけないことなものだから……。
未納 (立上る)妾、今誰かが、妾を好きだって言って来たら、誰でも好きになってやるわ。ほんとよ、それ……(出て行く)
[#ここから3字下げ]
昌允、じっとしている。立上る。ぶらぶら歩く。マントルピースの上の花瓶をみている。いきなり、そいつを掴むと思い切って床に叩《たた》きつけようとするが、しない。も一度その場所へ置き、両手でそれを撫でている。須貝、服を改めて、両手に相当大きなトランクを提げている。昌允をみて、当惑して立止る。
[#ここで字下げ終わり]
昌允 ああ。
須貝 ああ。
昌允 (じろじろみて)
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