っと妾の考えを当然だとお思いになってよ。妾の処置を有難がって下さる筈だわ。……さあ。今度こそ、お部屋へ行って休みましょう……。(二階へ上って行く。階段を、上り切った所で振り返り)あの人は、先刻この家を出て行く前にそう言ったのよ。自分は今の所誰とも結婚したくない。そう言うことを考えてみたくない。その理由はあなただって。妾だって……。(去る)
[#下げて地より2字あきで]――早い幕――
三
[#ここから3字下げ]
情景は前景と同じ。
鉄風、諏訪、昌允、美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]、未納。
[#ここで字下げ終わり]
鉄風 兎に角、俺は今須貝を放逐する気にはなれんよ。俺は長い間かかって彼奴を一人前の技術家にしてやった。これからというところで、こんな風な出来事で手放して了うのはあんまり惜しい気がするんだ。
昌允 それは惜しい惜しくないに拘らず、今の場合須貝さんに、この家を出て行って呉れというのは少し無法でしょう。お父さん達の料簡では、未納か美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]か、どっちかをあの人に呉れてやるつもりだった。ところが須貝さんは美※[#「にんべん+予」、第3水準1−14−11]を選んだ。その他の事はあの人には関係の無いことですよ。
諏訪 いいえ、あの人に関係の無いことでも、妾達の家庭には大きな関係のあることだわ。そして妾達にとっては、妾達の家が一番大事な問題なんですからね。他の事柄こそ、それに比べれば小さいことだわ。
未納 でも母さん、須貝さんは明日っから、初めて一本でお仕事なさるんでしょう。それだのに、今出て行って貰うなんて非道《ひど》いわ。そんなこと出来ないわ。
諏訪 あなた達、みんな妾に反対なんですね、いいわ、それでも妾は出て行って貰います。妾ひとりで、このことはやってみせます。(鉄風が何か云いかけるのを押えて)いいえ、あなただって、妾が此処に(胸を押えて)持っている、一つの理由をお聞きになったら、きっと妾の考えを当然だとお思いになってよ。妾の処置を有難がって下さる筈だわ。……さあ。今度こそ、お部屋へ行って休みましょう……。(二階へ上って行く。階段を、上り切った所で振り返り)あの人は、先刻この家を出て行く前にそう言ったのよ。自分は今の所誰とも結婚したくない。そう言うことを考えてみたくない。その理由はあな
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