ぐり弾《ひ》き出す。甚だしく拙《まず》い。少し弾いて直ぐ行詰まって了《しま》う。立ち上って、楽譜をさがす。
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あさ子 (さがすものが見つからないらしく)どうしたのかしら……。(もう一度、そんなに多くもない楽譜をパラパラ繰る)あ、そうか……(楽譜を放り出してピアノを離れ、ゆっくり縁側へ出て、又入って来る。机の横に置いた小物入れから作りかけにした衣装人形を取り出し、縁側に行って椅子にかける)
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真紀。四十七。ずっと若くみえる。
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真紀 (縁づたいにきて通り過ぎそうになって気がつき)おや。あさ子、あなた何時《いつ》帰ったの?
あさ子 たった今よ。薬局ん中でみてたんじゃないの。
真紀 いいえ、ちっとも知らなかった、母さん。
あさ子 そう。みてるんだと思ってた。御免なさいね。
真紀 それはいいけれど。また行かなかったのね。(にやりとする)
あさ子 あら母さん、行ったわよ。
真紀 お弁当を届けさせたら、おいでになりませんって、変な顔して帰ってきたよ。ほんとは何処《どこ》かで遊んでたんだろう。
あさ子 ひどいわ。そうじゃないのよ。
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