はいつのことでござんすえ?」と、おしおは思わず顔を上げた。
「来る十四日、明くればもう明日の夜に迫っているのだ」
「それでは明日の晩吉良邸へ乗りこんだら、あなたはもうそれぎりお帰りにはなれませぬか」
「うむ、一党残らず死ぬ覚悟で乗りこむのだ。たといその場で討死せいでも、天下の御法《ごほう》に背《そむ》いて高家へ斬りこむ以上、しょせん生きては還《かえ》られぬ。だがな」と、小平太はきゅうに声を落してささやいた、「そなたの思わくも面目ないが、どうもわしは未練があって、この期《ご》に及んでまだ死ぬ決心がつかぬ。わしの死んだ後で、お前がどうして暮すだろう、どうしてその日を送るだろうと思うと、いくら考えなおしてみても、そなたを一人残してはどうも死にきれない。で、すまぬことじゃが、お主《しゅう》のためには代えられぬ、いっそお前を手に懸けて――」
「ええッ!」
「お前は思い違いをしたようじゃが、いっそお前を手に懸けておいて、その足でお供《とも》に立とうと、寝ているのを幸い、そっと刀に手を懸けたところをお前に眼を覚されたのじゃ」
「まあ!」と言ったまま、おしおは俯向《うつむ》いて考えこんでしまった。が、
前へ 次へ
全127ページ中91ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森田 草平 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング