には、最初のお見舞いを受けねばならぬことを幽霊の戒告して行ったことを想い出した。彼はその時間が過ぎてしまうまで、眼を覚ましたまま横になっていようと決心した。ところで、彼がもはや眠られないことは天国に行かれないと同様であることを想えば、これは恐らく彼の力の及ぶ限りでは一番賢い決心であったろう。
その十五分は非常に長くて、彼は一度ならず、我知らずうとうととして、時計の音を聞き漏らしたに違いないと考えた位であった。とうとうそれが彼の聞き耳を立てた耳へ不意に聞えて来た。
「ヂン、ドン!」
「十五分過ぎ!」とスクルージは数えながら云った。
「ヂン、ドン!」
「三十分過ぎ!」
「ヂン、ドン!」
「もう後《あと》十五分」と、スクルージは云った。
「ヂン、ドン!」
「いよいよそれだ!」と、スクルージは占めたとばかりに云った、「しかも何事もない!」
彼は時の鐘が鳴らないうちにかく云った。が、その鐘は今や深い、鈍い、空洞《うつろ》な、陰鬱な一時を打った。たちまち室中に光が閃き渡って、寝床の帷幄《カーテン》が引き捲くられた。
彼の寝床の帷幄は、私は敢て断言するが、一つの手で側《わき》へ引き寄せられた。
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