を御覧よ。」
スクルージはうやうやしげな態度でそうした。精霊は、白い毛皮で縁取った、濃い緑色の簡単な長衣、若しくは外套のようなものを身にまとっていた。この着物は体躯《からだ》の上にふわりと掛けてあるばかりで、その広やかな胸は丸出しになっていた。その有様は、さもそんな人工的なものを用いて包んだり護ったりするには及ばないと威張っているようであった。上衣の深い襞の下から見えているその足も、矢張り裸出《むきだ》しであった。またその頭には、ここかしこにぴかぴか光る氷柱《つらら》の下がっている柊の花冠の外に、何一つ冠ってはいなかった。その暗褐色の捲毛は長くかつゆるやかに垂れていた。ちょうどそのにこやかな顔、きらきらしている眼、開いた手、元気の好い声、打ち寛《くつろ》いだ態度、快げな容子と同じようにゆるやかに。またその腰の周りには古風な刀の鞘を捲いていた。が、その中に中味はなかった。而もその古い鞘は銹びてぼろぼろになっていた。
「お前さんはこれまで俺《わし》のような者を見たことがないんだね!」と、精霊は叫んだ。
「決して御座いません」と、スクルージはそれに返辞をした。
「俺《わし》の一家の若い連中と一緒に歩いたことがなかったかね。若い連中と云っても、(俺はその中で一番若いんだから)この近年に生まれた俺《わし》の兄さん達のことを云ってるんだよ」と、幽霊は言葉を続けた。
「そんな事があったようには覚えませんが」と、スクルージは云った。「どうも残念ながら一緒に歩いたことはなかったようで御座います。御兄弟が沢山おありですか、精霊殿?」
「千八百人からあるね」と、幽霊は云った。
「恐ろしく沢山の御家族ですね、喰わせて行くにも」とスクルージは口の中で呟いた。
現在の聖降誕祭の幽霊は立ち上がった。
「精霊殿!」と、スクルージは素直に云った、「どこへなりともお気の向いた所へ連れて行って下さいませ。昨晩は仕様事なしに随いて行きましたが、現に今私の心にしみじみ感じている教訓を学びました。今晩も、何か私に教えて下さりますのなら、どうかそれに依って利するところのあるようにして下さいませ。」
「俺《わし》の上衣に触って御覧!」
スクルージは云われた通りにした。そして、しっかりそれを握った。
柊も、寄生樹も、赤い果実も、蔦も、七面鳥も、鵞鳥も、猟禽も、家禽も、野猪肉も、獣肉も、豚も、腸詰も、牡蠣も、
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