とになっているので、その景品をこれ見よとばかりに積み飾って置く。それがまた馬鹿に景気のいいもので、それに惹《ひ》かされると云うわけでもあるまいが、買手がぞろぞろと繋がってはいる。その混雑は実におびただしいものであった。
 それらの商店のうちでも、絵草紙屋――これが最も東京の歳晩を彩《いろど》るもので、東京に育った私たちに取っては生涯忘れ得ない思い出の一つである。絵草紙屋は歳の暮れにかぎられた商売ではないが、どうしても歳の暮れに無くてはならない商売である事を知らなければならない。錦絵の板元《はんもと》では正月を当て込みにいろいろの新版を刷り出して、小売りの絵草紙屋の店先を美しく飾るのが習いで、一枚絵もある、二枚つづきもある、三枚つづきもある。各劇場の春狂言が早くきまっている時には、先廻りをして三枚つづきの似顔絵を出すこともある。そのほかにいろいろの双六《すごろく》も絵草紙屋の店先にかけられる。そのなかには年々歳々おなじ版をかさねているような、例のいろは短歌や道中|双六《すごろく》のたぐいもあるが、何か工夫して新しいものを作り出すことになっているので、武者絵《むしゃえ》双六、名所双六、お化
前へ 次へ
全408ページ中97ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング