のために箱根に転地、強羅《ごうら》の一福《いちふく》旅館に滞在。七月下旬のある日、散歩ながら強羅停車場へ出てゆくと三十一日午後七時から蘆《あし》の湖《こ》で燈籠《とうろう》流しを催すという掲示があって、雨天順延と註されていた。
けさの諸新聞の神奈川《かながわ》版にも同様の記事が掲げられていたのを、私は思い出した。宿へ帰って訊《き》いてみると、蘆の湖の燈籠流しは年々の行事で、八月一日は箱根神社の大祭、その宵宮《よみや》に催されるものであるという。
さらに案内記を調べると、今より一千一百余年前の天平勝宝《てんぴょうしょうほう》年間に満巻上人という高僧が箱根権現の社《やしろ》に留《とど》まっていた。湖水の西の淵《ふち》には九つの頭を有する悪龍が棲んでいて、土地の少女を其の生贄《いけにえ》として取り啖《くら》っていたが、満巻上人の神呪《しんじゅ》によってさすがの悪龍も永く蟄伏《ちっぷく》し、少女の生贄に代えて赤飯《せきはん》を供えることになった。それが一種の神事となって今も廃《すた》れず、大祭当日には赤飯を入れた白木の唐櫃《からびつ》を舟にのせて湖心に漕ぎ出で、神官が祝詞《のりと》を唱えて
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