を宿しているのも何だか酷《むご》たらしい姿であった。わたしは暫く立っていたが、娘は容易に動きそうもなかった。
 堂と真向いの家はもう起きていた。家の軒には桑籠《くわかご》がたくさん積まれて、若い女房が蚕棚《かいこだな》の前に襷《たすき》がけで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。
 どこかで蛙が鳴き出したかと思うと、雨はさアさアと降って来た。娘はまだ一心に拝んでいた。女房は慌てて軒下の桑籠を片付け始めた。[#地付き](大正5・6「木太刀」)
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栗の花


 栗《くり》の花、柿の花、日本でも初夏の景物にはかぞえられていますが、俳味に乏しい我々は、栗も柿もすべて秋の梢にのみ眼をつけて、夏のさびしい花にはあまり多くの注意を払っていませんでした。秋の木の実を見るまでは、それらはほとんど雑木《ぞうき》に等《ひと》しいもののように見なしていましたが、その軽蔑《けいべつ》の眼は欧洲大陸へ渡ってから余ほど変って来ました。この頃の私は決して栗の木を軽蔑しようとは思いません。必ず立ちどまって、その梢をしばらく瞰《み》あげるようになりました。

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