予言者)を乗せた船のように、ゆれて傾いた。しかも、罪ある人ばかりでなく、乗組みの大勢をも併せて海のなかへ投げ落してしまった。彼は悪魚の腹にも葬られずに、数時間の後に引揚げられたが、彼はその金を懐ろにしたままで凍え死んでいた。
これを話した人は、彼の死はその罪業《ざいごう》の天罰であるかのように解釈しているらしい口ぶりであった。天はそれほどに酷《むご》いものであろうか――わたしは暗い心持でこの話を聴いていた。
南条《なんじょう》駅を過ぎる頃から、畑にも山にも寒そうな日の影すらも消えてしまって、ところどころにかの砂烟《すなけむ》りが巻きあがっている。その黄いろい渦が今は仄白《ほのじろ》くみえるので、あたりがだんだんに薄暗くなって来たことが知られた。汽車の天井には旧式な灯の影がおぼつかなげに揺れている。この話が済むと、その人は外套《がいとう》の袖をかきあわせて、肩をすくめて黙ってしまった。私も黙っていた。
三島から大仁までたった小一時間、それが私に取っては堪えられないほどに長い暗い佗《わび》しい旅であった。ゆき着いた大仁の町も暗かった。寒い風はまだ吹きやまないで、旅館の出迎えの男どもが
前へ
次へ
全408ページ中211ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング