植《つげ》などの下枝に掩《おお》われながら、南向きに寂しく立っていた。秋の虫は墓にのぼって頻《しき》りに鳴いていた。
この時、この場合、何人《なんぴと》も恍《こう》として鎌倉時代の人となるであろう。これを雨月物語《うげつものがたり》式につづれば、範頼の亡霊がここへ現われて、「汝《なんじ》、見よ。源氏《げんじ》の運も久しからじ。」などと、恐ろしい呪《のろ》いの声を放つところであろう。思いなしか、晴れた朝がまた陰って来た。
拝し終って墓畔の茶屋に休むと、おかみさんは大いに修善寺の繁昌を説き誇った。あながちに笑うべきでない。人情として土地自慢は無理もないことである。とこうするあいだに空はふたたび晴れた。きのうまではフランネルに袷《あわせ》羽織を着るほどであったが、晴れると俄《にわ》かにまた暑くなる。芭蕉《ばしょう》翁は「木曾《きそ》殿と背中あはせの寒さ哉《かな》」と云ったそうだが、わたしは蒲《かば》殿と背中あわせの暑さにおどろいて、羽織をぬぎに宿に帰ると、あたかも午前十時。
午後、東京へ送る書信二、三通をしたためて、また入浴。欄干《らんかん》に倚《よ》って見あげると、東南につらなる塔《
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