その時に、象潟の商人は尽きぬ名残《なごり》を惜しむままに、こういう事を約束した。私には一人の娘がある、お前にも一人の息子があるそうだ。どうか此の二人を結び合わせて、末長く睦《むつ》み暮らそうではないか。
掃部も喜んで承諾した。松島の家へ帰り着いてみると、息子の小太郎《こたろう》は我が不在《るす》の間に病んで死んだのであった。夢かとばかり驚き歎いていると、象潟からは約束の通りに美しい娘を送って来たので、掃部はいよいよ驚いた。わが子の果敢《はか》なくなったことを語って、娘を象潟へ送り還そうとしたが、娘はどうしても肯《き》かなかった。たとい夫たるべき人に一度も対面したことも無く、又その人が已《すで》に此の世にあらずとも、いったん親と親とが約束したからには、わたしは此の家の嫁である、決して再び故郷へは戻らぬと、涙ながらに云い張った。
哀れとも無残とも云いようがない。私はこんな話を聞くと、身震いするほどに怖ろしく感じられてならない。わたしは決してこの娘を非難《ひなん》しようとは思わない。むしろ世間の人並に健気《けなげ》な娘だと褒めてやりたい。しかもこの可憐の娘を駆っていわゆる「健気な娘」
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