考えさせておくんなんし」と、彼女はともかくもそう言って置いた。
「急ぐこともあるまい。まあ考えて置いてくれ」と、栄之丞も言った。久し振りでこう差しむかいになって見ると、彼にもさすがに未練はあった。
 ひとには瑕《きず》のように見える細い眼、あまりに子供らしい下《しも》ぶくれの頬、それもこれも、栄之丞の眼には又となく可愛らしく映ったこともあった。その昔の懐かしい思いを今更のように誘い出されて、この若々しい顔の持ち主を人手に渡すのが彼は急に惜しくもなった。栄之丞は飲めもしない杯を手にして、八橋の白い横顔をうっとりと見つめていた。
「ぬしはこの頃なぜちっとも寄り付きなんせん。わたしというものに愛想がつきなんしたかえ」と、八橋の方でも男の顔を覗きながらまた訊《き》いた。
「愛想がつきたというじゃあないが、あんまり近寄るとお互いのためになるまいと思うからだ」
「なぜお互いのためになりんせんえ」
「身請けの相談などが始まろうという時に、私たちがしげしげ逢うのはよくない」
「嘘をつきなんし。その相談の始まらない遠い昔から、ちっとも寄り付かないじゃありいせんか。ぬしにはたんと恨みがおざんす」
 いっそ
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