今夜はどうして治六を連れて来ないかと訊いた。あいつは勘当したと次郎左衛門は正直に答えると、二人の女は黙って顔を見合せていた。治六の噂がいとぐちになって、又ぞろゆうべの身請けの話が出た。
「三月になると国へ一度帰る。そうして、金を持って来るから待ってくれ」
 次郎左衛門もよんどころなしに一時のがれの嘘を言った。浮橋が出て行ったあとで、八橋は急に泣き出した。
「堪忍しておくんなんし」
 今までお前を欺していたが、栄之丞は自分の従弟《いとこ》ではない、実は自分の情夫《おとこ》であるということを、八橋は泣いて白状した。いくらこっちでばかり親切を運んでも、むこうではなんとも思ってくれないで、この頃はなるたけ逃げようとしている。現に達者で雷門を歩いていながら、病気だといって廓へは寄り付かない。そんな不人情な男はわたしもすっぱりと思い切った。あきらめてしまった。さてそうなると、こうして廓にいてもなんの望みもない、楽しみもない、一日も早く苦界《くがい》をぬけたい。今のわたしが杖柱《つえはしら》と取りすがるのは、お前ばかりである。一つには不実な男の顔を見返すためと、二つには廓の苦を逃がれるために、どうぞ
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