お光は八橋と文通をしていた。兄の使いで吉原へ行ったこともあった。
「いや、それにも及ぶまい。わたしからそのうちに知らせてやる。廓の者は無考えだから、お前の奉公さきへ返事などをよこされると迷惑だ。まあ止した方がよかろう」
「そうでございますねえ」
 お光はおとなしく黙ってしまった。

     六

 次郎左衛門はその明くる日も、またその明くる日も流連《いつづけ》をして帰った。馬喰町の佐野屋の閾《しきい》をまたいだのは、師走の二十四日の四つ頃(午前十時)で、彼は近所の銭湯へ行って、帰るとすぐに夕方まで高いびきで寝てしまった。
「治六さん。相変らず長逗留だったね」と、佐野屋の亭主が顔をしかめてささやいた。
「どうも仕方がねえ」と、治六もあきらめたように溜め息をついていた。しかしただ諦めてはいられないので、彼は亭主になんとかいい工夫はあるまいかと更に相談した。
「いっそ、その花魁を請け出したらどうだろう」
 亭主はしまいにそんなことを言い出した。こういう風にだらしなく金をつかっていたら、千両が二千両でも堪まったものではない。いっそ千両の金をたんと減らさないうちに八橋を請け出してしまって、残っ
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