躇したが、いっそこうなったら次郎左衛門をさきにやりすごして、自分は後から大門を出ようと思ったので、ともかくも早く立花屋へ顔を出して来たらよかろうと八橋に言った。
「そんなら、ちょいと行って来るまで待っていておくんなんし」と、八橋は念を押して出て行った。
 浮橋はひと足さきへ駈けぬけてゆくと、次郎左衛門はやはり立花屋の店先に腰をかけていた。表はもう薄明るくなっていたが、店の奥には暁《あ》けの灯の影が微かにゆらめいていた。
「もう帰りなんすかえ」
 八橋は次郎左衛門のそばへ来て同じく腰をかけた。籠釣瓶を身に着けていながら、次郎左衛門はまだ思い切って手をかける機会がなかった。彼は花の吹き溜まりを爪先《つまさき》で軽くなぶりながら、なるべく女の顔を見ないように眼をそらしていた。そのうちに女房は衣類を着替えて奥から出て来て、ともかくも二階へあがれと次郎左衛門にすすめた。浮橋も勧めた。
「まあ、大尽から」と、女房は手を揉みながら言った。
 次郎左衛門は無言でずっと起って店口の階子《はしご》をあがった。少しおくれて八橋も上がった。
 彼女が階子の中ほどまで登った時に、もう上がり切っていた次郎左衛門が
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