次郎左衛門を見限ると同時に、彼女はむやみに栄之丞が懐かしくなって、うかうか[#「うかうか」に傍点]と起請を焼いたことがしきりに悔まれた。いろいろの手段を尽くして、むかしの恋人を引き寄せようとあせった。その念がふた月越しでようように届いて、眼に見えない糸に引かれたように男が今夜ふらり[#「ふらり」に傍点]と来た。彼女は嬉しいので胸がいっぱいになって、次郎左衛門のことなどを話している余地はなかった。
栄之丞から訊かれて、彼女は初めて思い出したように、二月以来、次郎左衛門の足が遠ざかったことを話した。浮橋の噂によると、次郎左衛門は余ほど内証が詰まって来て、茶屋にも借りが出来たらしい。今まで大尽かぜを吹かせていた彼が、廓の人たちの手前、余り落ちぶれた姿を見せたくもあるまい。このごろ足をぬいたのも無理はない。利口な人ならば、ここらでもう見切りをつけて、二度と大門《おおもん》をくぐらない筈であると、八橋は彼の未来を占うように言った。
「そうかも知れない」
栄之丞は思わず溜め息をついた。廓で全盛を尽くした大尽の零落は珍らしくない。次郎左衛門が佐野の身上《しんしょう》をつぶしたことは、栄之丞もと
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