にくやしく思われた。その女の手からなぜこの金を受取って来たのであろう。なぜ女のひたいに叩き付けて来なかったのであろうと、栄之丞は自分の弱い心を自分で罵り恥ずかしめたかった。
「お光も可哀そうだ」
彼はまた思い返した。
意気地《いくじ》なしと言われても、弱虫とあざけられても仕方がない。ともかくも目的の通りに金の才覚ができた以上は、早くこれを橋場へ届けて妹に安心させてやろうと思った。妹もおれのためには随分苦労している。せめてこういう時には兄甲斐《あにがい》のあるようにしてやらなければならないと、彼は妹が可愛さに一時の不平を抑えて、すぐに橋場の奉公さきへ急いで行った。
十四
三月になって絹糸のような雨が二、三日ふりつづいた。馬喰町の佐野屋の二階から見おろすと、隣りの狭い庭に一本の桃の花が真っ紅《か》に濡れて見えた。どこかで稽古三味線《けいこじゃみせん》の音が沈んできこえた。なま暖かいひと間の空気に倦《う》んで、次郎左衛門は障子を少しあけていたが、やがて又ぴっしゃりと閉め切って古びた手あぶりの前に坐って、小さい鉄瓶の口から軽く噴く湯煙りのゆくえを見つめていた。
座敷の片隅
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