心を言っていたようだったね。さあ、十両はおれがやる。その代りに八橋の起請を置いて行くがいい」
 ここで持っていないと言うのは余り卑怯だと思って、栄之丞は掛守《かけまもり》から女の起請を取り出した。彼はせめてもの腹癒せに、次郎左衛門の眼の前でずたずた[#「ずたずた」に傍点]に引き裂いて見せた。
 芝居のようなこの場は、これで終った。
 栄之丞は黙って起ち上がると、次郎左衛門はうしろから声をかけた。
「おい、栄之丞さん。この金を持って行かねえのか」
 聞かない振りをして彼は廊下へ出た。次の間にいた浮橋も気の毒なような、困った顔をして、これも黙って送って来た。栄之丞が二階の階子《はしご》を降りようとする時に、あとから八橋がそっと追って来た。
「みんなあとで判ることでありんす」
 彼女は紙につんだ十両を男の手に掴ませた。いっそ叩き返そうと思っても、その手さきは女にしっかり握られているので、栄之丞はどうすることも出来なかった。彼はくすぐったいような心持ちで、とうとうその金をふところに収めて出た。
 堤《どて》へあがると、うすら寒い風はいつしか凪《な》いで、紫がかった箕輪田圃《みのわたんぼ》の空に
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