面に出張し、鷲の飛んで来るのを待ち受けて、強薬《つよぐすり》で撃ち落すのである。
飛行機などのなかった時代の武士にとっては、この鷲撃ちの役目は敵の飛行機を待つと同様で、与力一騎に同心四人が附添い、それがひと組となって、鉄砲はもちろん遠眼鏡《とおめがね》をも用意し、昼も夜も油断なく警戒しているのである。その警戒の方法は時代によって多少の相違があったらしいが、ともかくも普通の獣狩《けものがり》とは違って、相手が飛行自在の猛鳥であるから、ぎょうぎょうしく立ち騒いで、かれらをおどろかすのは禁物である。かれらが油断して近寄るところを待受けて、ただ一発に撃ち落さなけれはならない。ついては、その本陣の詰所を土地の庄屋または大百姓《おおびゃくしょう》の家に置き、当番の組々がひそかにめいめいの持場《もちば》を固めることになっていた。官命とはいいながら、何分にも殺生《せっしょう》の仕事であるから、寺院を詰所に宛てるのを遠慮するのが例であった。
ことしも九月からの鷲撃ちが始められた。和田弥太郎は年番にあたったが、古参であるからまだ出ない。最初の九月は未熟の新参者が勤めることになっているのは、めったに鷲が
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