赤児の泣く声がきこえる。不思議に思って見まわすと、年古る樟《くす》の大樹に鷲の巣があって、その巣のなかに赤児が泣いているのであった。あたかもそこへ来かかった木樵《きこり》にたのんで、赤児を木の上から取りおろしてもらって、ともかくもここまで抱いてきたが、長い旅をする尼僧の身で、乳飲み子をたずさえていては甚だ難儀である。なんとかしてお前の手で養育してくれまいかと、かれは角蔵に頼んだ。
その赤児は尼僧の私生児であろうと、角蔵は推量した。鷲の巣から救い出して来たなどというのは拵えごとで、尼僧が自分の私生児の処分に困って、その貰い手を探しているのであろうと推量したので、彼は気の毒にも思い、また一方には慾心を起して、もし相当の養育料をくれるならば引取ってもいいと答えると、尼僧は小判一両を出して渡した。角蔵はその金と赤児とを受取って別れた。その尼僧は何者であるか、それから何処へ行ったか、その消息はいっさい不明であった。
角蔵夫婦にはお島という娘がある。赤児も女であるので、その妹として養育した。甲州の親類からよんどころなく引取ってきたと世間には披露して、その名をお蝶と呼ばせていた。同情が半分、慾心
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