揃って正直者であった。その正直者の親子のところへ、江戸屋敷のお島から手紙が来て、ことしの鷲撃ちは旦那さまのお年番で、しかもお身の一大事であるというようなことを内々で知らせてよこしたので、親子三人もおどろいた。
さりとて、かれらの力でどうなる事でもないので、この上は神ほとけの力を頼むよりほかはない。母のお豊と妹のお蝶が連れだって、日ごろ信仰する川崎大師へ参詣に出て来たのも、それがためであった。お松と久助が遠い江戸からここへ参詣に来たのも、やはりそれがためであった。同じ縁日に、おなじ願いごとで参詣に来た親子と主従とがここで出逢ったのは、偶然に似て偶然でもなかった。
こうして落合って、話し合っていると、お松に溜息の出るのも無理はなかった。お豊はもう涙ぐんでいた。そうして、あたりを見まわしながら小声でこんなことを言い出した。
「今も久助さんの仰しゃる通り、旦那さまのお腕前では万に一つもお仕損じはないこととは存じますが……。それでも何かのはずみで、もしもの事でもございましたら、旦那さまは……。」
言いかけて、お豊は声を立てて泣き出した。娘のお島の手紙によると、もしその尾白に出逢って仕損じる
前へ
次へ
全47ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング