っていた和田弥太郎は、なんと思ったか声を立てて呵々《からから》と笑った。彼はただ笑ったばかりで別になんの説明も加えなかったが、場合が場合であるから、その笑い声は一座の興《きょう》をさました。
岩下ら三人の未熟を笑ったのか、あるいは我れならばきっと仕留めてみせるという自信の笑いか、いずれその一つとは察せられたが、弥太郎は組内の古参といい、鉄砲にかけても老練の巧者であることを諸人もよく知っているので、さすがに正面から彼を詰問する者もなかったが、その不快が陰口《かげぐち》となって表われた。それは今もお松が言ったように――いかに和田でも、羽田の尾白は仕留められまい。もし仕損じたら笑い返してやれ――。
弥太郎は武士|気質《かたぎ》の強い、正直|律義《りちぎ》の人物であったが、酒の上がすこしよくないので、酔うと往々に喧嘩口論をする。みんなもその癖を知っているのではあるが、その夜の弥太郎の笑い声はどうも気に食わなかったのである。弥太郎も醒めてから後悔したが、今さら仕様もない。この上は問題の尾白を見つけ次第に、自分の筒先《つつさき》で撃ち留めるよりほかはなかった。自分の腕ならば、おそらく仕損じはあ
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