中に坐ったままで微かに息をついているのです。」
「病気で動かれなくなったのではないかな。」と、織衛は言った。
「わたしもそう思ったので、立ちどまって声をかけて、おい、どうしたのかと言うと、その婆のすがたは消えるように見えなくなってしまったのです。なにしろ薄暗いなかで、雪明かりを頼りにぼんやり見たのですから自分にも確かなことは判りません。もしや自分の空目《そらめ》かと思ったのですが、どうもそうばかりではないらしく、一人の婆が真っ白な姿で路ばたに坐っていたのは本当のように思われてならないのです。それで、あとから来たものを一々詮議しているのですが、神南も見たと言い、森積も見たと言うのですから、もう疑うことはありません。やはりその婆が坐っていたのです。」[#「です。」」は底本では「です」]
 堀口が不思議そうに説明するのを聞いて、織衛も眉をよせた。
「その婆が坐っていたのはいいとして、貴公が近寄ると消えてしまったというのは少しおかしいな。森積、貴公が銭をなげてやったらその婆はどうした。」
 その問いに対して、森積嘉兵衛ははっきりと答えることが出来なかった。彼は雪中に坐っている老婆に幾らかの小銭
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