えず、この処置をどうしたら好いかと、お銀も思案にあぐんだのであった。
 その晩、友之助の帰るのを待ちかねて、お銀は早々にその詮議をすると、友之助もお蝶と関係のあることを白状した。それならば、なぜお筆との縁談を承知したかと詰問《きつもん》すると、友之助の返事は甚だあいまいであった。かれは母にきびしく追求されて、とうとうこんなことまで白状に及んだ。
「実はわたしは最初からお筆さんの方が好いと思っていたのです。それでこの八月ごろ内証でお筆さんに話してみたところが、お筆さんの言うには、折角の思召《おぼしめ》しだがその御返事は出来ない。あなたは御存じあるまいが、家《うち》のお蝶さんがふだんからあなたを思っている。それを知りつつわたくしがあなたと夫婦になられる訳のものではない。嘘だと思うならば、二、三日のうちにお蝶さんを連れて来て逢わせるというのです。それから二日目の夕方にお筆さんがそっと来て、今晩お蝶さんと二人で招魂社《しょうこんしゃ》の馬場へ涼みに行くから、あなたもあとから来てくれというので、私もついふらふらとその気になって招魂社まで出かけて行きました。」
 お蝶と友之助との関係がお筆の取持ち
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