くので、なんの用かと尋ねると、少女は答えて、恥かしながら自分は先年火あぶりのお仕置をうけた八百屋の娘お七である。今もなおこのありさまで浮ぶことが出来ないから、どうぞ亡きあとを弔ってくれと言った。頼まれて、足軽も承知したかと思うと、夢はさめた。
不思議な夢を見たものだと思っていると、その夢が三晩もつづいたので、足軽も捨てては置かれないような心持になって、駒込の吉祥寺へたずねて行くと、それは伝説のあやまりで、お七の墓は小石川の円乗寺にあると教えられて、更に円乗寺をたずねると、果してそこにお七の墓を見いだした。その石碑は折れたままになっているが、無縁の墓であるから修繕する者もないという。そこで、足軽は新しい碑を建立《こんりゅう》し、なにがしの法事料を寺に納めて無縁のお七の菩提を弔うことにしたのである。いかなる因縁で、お七がかの足軽に法事を頼んだのか、それは判らない。足軽もその後再びたずねて来ない。
以上が蜀山人手記の大要である。案ずるに、この記事を載せた「一話一言」の第三巻は天明五年ごろの集録であるから、その当時のお七の墓はよほど荒廃していたらしい。お七の墓が繁昌するようになったのは、寛
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