夢のお七
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)傍《かたわら》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)武家|何某《なにがし》、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]昭和九年十月作「サンデー毎日」
−−

     一

 大田蜀山人の「一話一言」を読んだ人は、そのうちにこういう話のあることを記憶しているであろう。
 八百屋お七の墓は小石川の円乗寺にある。妙栄禅定尼と彫られた石碑は古いものであるが、火災のときに中程から折られたので、そのまま上に乗せてある。然るに近頃それと同様の銘を切って、立像の阿弥陀を彫刻した新しい石碑が、その傍《かたわら》に建てられた。ある人がその子細をたずねると、円乗寺の住職はこう語った。
 駒込の天沢山龍光寺は京極佐渡守高矩の菩提寺で、屋敷の足軽がたびたび墓掃除にかよっていた。その足軽がある夜の夢に、いつもの如く墓掃除にかようこころで小石川の馬場のあたりを夜ふけに通りかかると、暗い中から鶏が一羽出て来た。見ると、その首は少女で、形は鶏であった。鶏は足軽の裾をくわえて引
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