痛めた。決して邪魔にする気ではないが、綾衣をこうして預かっていることは、火の中にある毬栗《いがぐり》を守っているよりも更にあぶないと思われた。しょせんは時間の問題で、永久に破裂を防ぐことの出来ないのは母子もあらかじめ覚悟していなければならなかった。
 秘密が破裂したあかつきは第一に殿様のおためにならない。大菱屋から拐引《かどわかし》を言い立てられたら、あるいは殿様の御身分にかかわるようなことが出来《しゅったい》しないとも限らない。母子は何よりも先ずこれを恐れていた。
 そうなれば殿様ばかりでない。綾衣の為にもならないのは知れている。ひいては自分たちも迷惑を被《かぶ》るに相違ない。それとこれとを考え合わせると、不人情のようではあるが、お時はどうかして綾衣を遠ざけたいように思った。さりとてほかに行く所のないのは判っているので、彼女は綾衣にむかって、いっそ廓へ帰るようにそれとなく意見したこともあった。
 殿様を大事と思うならば、どうか廓へ帰ってくれと、お時もしまいには打ち明けて言った。遅かれ速かれこの事が露顕したら、殿様の御身分にもかかわる、五百石のお家にも瑕が付く、そこを察してくれと、彼女
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