ら》の底を探したが、小柄の十吉の着物では間に合いそうもないので、彼女は二枚の女物を引き出した。縞の銘仙の一枚は、外記が五つの袴着《はかまぎ》の祝儀の時にお屋敷から新しくこしらえて頂いたのを、物持ちのいい彼女は丹念に保存して置いたのである。もう一枚の紬《つむぎ》は奥様のお形見として頂戴したもので、いずれも薄綿であった。
「女物ではござりますが、奥様のお形見でござります」と、彼女は外記に紬を着せてやった。綾衣は銘仙を羽織った。
 母の形見に手を通して、外記も懐かしいような寂しいような、なんだか暗い心持ちになった。そのお形見がこういう時の役に立とうとは、お時も夢にも思わなかった。彼女は急に悲しくなって、訳もなしに涙がほろほろ[#「ほろほろ」に傍点]とこぼれた。

     六

 外記は明くる朝早く帰った。帰るときにも綾衣のことをくれぐれも頼んで行った。
 頼まれたお時おやこの気苦労はひと通りでなかった。それも普通の人でない、くるわの駈落ち者である。しかも眼と鼻のあいだに廓を控えているここらあたりに、その駈落ち者をかくまって置くのは、燈台もと暗しとはいえ、随分あやうい仕事であった。それでも母
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