でなされたか。まずともかくもお通りなされませ。
与五郎 むむ。
(両人は内に入りて、あたりを照し視る。)
与五郎 おお、燈台はあれにある。燈火《あかし》をつけられい。
玉琴 心得ました。
(両人は蓑をぬぎ、玉琴は縁にあがりて、松明の火を燈台に移す。与五郎はその松明を打消して、おなじく縁にあがり、両人座を占める。)
与五郎 姉御はいずかたへ参られたであろうな。
玉琴 さあ、近所へ物買いにゆかれたか。但しは奥に……。(起って奥をうかがう。)奥も暗がりでよくは見えぬ。もし、姉様……姉上様……。
玉虫 そういうは誰じゃ。わらわはこれに居りまする。
(玉虫は小袿をぬぎ、白小袖、緋の袴にて、奥よりいず。)
玉琴 おお、姉様……。それにおいでなされましたか。
玉虫 又しても姉という。そなたとは、すでに縁切っているのじゃ。
(云いつつ悠然と座に直る。与五郎は一と膝すすめて会釈す。)
与五郎 姉上には初めて御意得申す。それがしは下野《しもつけ》の国の住人、那須与市宗隆の弟《おとと》、同苗与五郎宗春。
玉虫 その与五郎どのが何用あってここへはまいられた。
与五郎 妹御を所望にまいった。仔細はおおかた御存じ
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