した切っ先があたかもそれに触れたのかも知れない。茂左衛門自身もいっさい夢中であったので、何がどうしたのか、その説明に苦しむのであるが、ともかくも自分の手に怪しい獣の毛を掴んでいるのは事実である。彼はその毛を夢中でしっかり握りつめて、片手なぐりに斬って廻っていたものらしい。
「いや、なんにしてもお手柄だ。渡辺綱《わたなべのつな》が鬼の腕を斬ったようなものだ。」
 今夜の大将ともいうべき伊丹弥次兵衛は褒めた。

     四

 もうひとつ発見されたのは、半死半生で路ばたに倒れている鉄作の姿であった。これも同じ家にかつぎ込まれて人びとの介抱をうけたが、その暁け方にとうとう死んだ。
「わしが海馬に蹴殺されるのは、お福の恨みに相違ない。」と、鉄作は言った。
 彼は死にぎわにおもよに向って、怖ろしい懺悔をした。
 お福は海馬に踏み殺されたのではなく、実は鉄作が殺したというのである。前にもいう通り、鉄作とおらちとは従弟同士で、そのおらちがお福の家の娘に貰われていった関係から、鉄作もしばしばそこへ出入りをして、次郎兵衛の死後にはいつか後家のお福と情《じょう》を通ずるようになったのである。勿論それは女
前へ 次へ
全34ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング