年賀郵便
岡本綺堂

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)視《み》た

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神田|美土代町《みとしろちょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぞろぞろ[#「ぞろぞろ」に傍点]
−−

 新年の東京を見わたして、著るしく寂しいように感じられるのは、回礼者の減少である。もちろん今でも多少の回礼者を見ないことはないが、それは平日よりも幾分か人通りが多いぐらいの程度で、明治時代の十分の一、ないし二十分の一にも過ぎない。
 江戸時代のことは、故老の話に聴くだけであるが、自分の眼で視《み》た明治の東京――その新年の賑《にぎわ》いを今から振返ってみると、文字通りに隔世の感がある。三ヶ日は勿論であるが、七草を過ぎ、十日を過ぎる頃までの東京は、回礼者の往来で実に賑やかなものであった。
 明治の中頃までは、年賀郵便を発送するものはなかった。恭賀新年の郵便を送る先は、主に地方の親戚知人で、府下でもよほど辺鄙な不便な所に住んでいない限りは、郵便で回礼の義理を済ませるということはなかった。まして市内に住んでいる
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング